広島家庭裁判所呉支部 昭和33年(家)457号 審判 1958年11月17日
申立人 平野マツ(仮名)
主文
第一、本籍広島県○市○○町○○○○番地ノ一石川竜雄の戸籍中
イ、戸主との続柄欄に前戸主石川太郎長男とあるを前戸主石川太郎孫と
ロ、父母欄に父亡石川太郎母ンノ長男とあるを母石川マツ男と
ハ、身分事項欄に○○郡○○町○○○○番地二於テ出生父石川太郎届出云々とあるを○○郡○○町○○○○番地ニ於テ出生同居ノ親族石川太郎届出云々と
ニ、同欄に昭和五年四月○○日前戸主太郎死亡ニ因リ家督相続親権ヲ行フ母石川ソノ届出云々とあるを昭和五年四月○○日前戸主太郎死亡ニ因リ家督相続届出云々と
それぞれ訂正し
第二、上記の趣旨に従い関係除、戸籍を訂正することを許可する。
理由
申立人は主文と同旨の審判を求め、その原因として(1)事件本人は申立人と平野勇との間に大正九年一月○○日出生した子である。(2)それが石川太郎同ソノの長男として戸籍に記載されたのは、申立人と平野勇が事実上婚姻し申立人方で同棲したにかかわらず平野勇は平野家の長男であり、申立人は男児なき石川家の長女であつたので旧民法下法定の推定家督相続人として婚姻の届出をすることができないまま事件本人を出産したが、これを非嫡出子として戸籍に登録するに忍びず、申立人、申立人の父母並に平野勇が相談の上、申立人の父母の長男と仮装して出生届をしたがためである。(3)従て事件本人は石川太郎同ソノの長男ではない。(4)事件本人は昭和十九年七月十三日西部ニュウギニヤ戦線で妻子なくして戦死し、申立人は真実の親であるのに上記のように戸籍が仮装されているので遺族としての扶助料を受けることができない。
そこで真実に従い事件本人が申立人の子であるよう戸籍訂正許可の裁判がしてほしいというのである。
そこで当裁判所は、記録添付の石川竜雄の戸籍謄本、石川太郎の除籍謄本、平野勇の戸籍謄本、家庭裁判所調査官高橋昌之の調査報告書の各記載を審査した結果および証人平野勇、同西京子、同石川シズ、申立人本人を各審問した結果により、申立人主張の事実が真実であることを認定する。このような場合仮装された父母および子が生存すれば親子関係不存在の訴又は調停により、仮装された父母が死亡しても真実の父又は母が生存し子もまた生存すれば親子関係存在確認の訴又は調停により判決又は審判を得て戸籍訂正の手続をすることができるのであるが、既に仮装された父母も子も死亡した場合には、たとえ真実の父母が生存していても、その父母から親子関係存在確認の訴又は調停を提起することは現行法ではその途が開かれていない。しかし子または父母のいづれかが生存する限り社会生活上親子関係不存在又は存在の確認裁判を受ける実益と必要ある場合のあることは、否み難いところであるし、かかる必要と利益のある場合にもそれを拒否しなければならない理論上の根拠もないと思われる。人事訴訟手続法が子の認知、父を定むることを目的とする訴について検察官を相手方とすることができることを定めながらその他の親子関係存在又は不存在の訴訟について検察官を相手方とする規定を設けなかつたのは、同法が一般的な親子関係存在又は不存在の訴訟について何等の規定も設けなかつたための遺脱であつて積極的に親子の一方死亡後の親子関係存否確認の裁判を拒否する意図を有するものではないと考えられる。そのように考えると事実上親子関係存否の実体に触れるものであつても、戸籍法第一一三条の解釈の容す範囲で戸籍訂正の裁判をすることもできるものと解される。当裁判所はこのような考え方の下に本件申立を形式理論の上からも適法であると認め、参与員桐原松雄、熊谷清子の意見を聴き戸籍法第一一三条により主文の通り審決する。
(家事審判官 太田英雄)